2010年3月12日金曜日

世界遺産にて。「リトアニア Dandelion Way」


 「タンポポの道」は自宅から駅までのリハビリのための道だった。
退院当初、ふらつきながら駅まで歩いた道である。







三月も中旬だというのにまだまだ季節は不安定で、
三寒四温とはいえ
寒さと風の強さには少々まいっていた。
吹き荒れる春風もやがては薫風に成長するのだけれど、
その荒れ様は、
ただ大人になるのを嫌がる少年の最後の抵抗のようでもあった。




しかし退院したばかりの僕にはひどく応えた。
こんな風のなかで生きていけるのだろうかとさえ思った。
「病上がりの生き物」なんて、ひ弱な存在で、
人工都市や薬という防御装置がない大自然のなかだったら、
僕は一瞬にして肉食動物の餌か植物の肥やしになっていると思う。




「タンポポロード」
特別に花や自然が好きだという訳ではない。
リハビリのためにタンポポを避けながら歩く、
これがこの道を選んだ理由であった。

耳朶を過ぎる風はずいぶんと和らいで、歩く早さもあがってきた。
もう季節は大人になり始めたのかも知れない。
これぐらいの季節なら
薬の力をかりてでも生きていけるのかも知れないと思う。





振り返るとたくさんのタンポポが風に揺れていた。
無数の黄色い花と綿帽子、
その一つ一つが僕の忘れてしまった想いでに見えた。



リトアニアの遠くまで続くなだらかな丘陵。
風が渡っていくのがみえる草原には、遥かな水平線までタンポポが揺れている。
ファインダーを覗いたほんの瞬間、少し前の病んでいた自分を想いだした………。