2010年11月13日土曜日

世界遺産にて。「琵琶国の五将軍」


ラクダの隊商達が、東方から何日もの旅をして、高価な絹や白磁の壷を持ち帰っていた頃の遠い遠い昔のお話し……

巨大なタクラマカン砂漠がようやく終わる所に「琵琶守国」がありました。楽器の琵琶が生まれた国としても有名ですが、遥かな西方の都市、ローマにも聞こえた勇猛な五人の剣士がいました。
五人は優れた剣の達人でしたが、なかでも一番と噂された「毘魯将軍」は剣術ばかりではなく、人々の想像を超えた奇抜な作戦を用いて敵を打ち破っていました。連戦連勝の5剣士は琵琶国の人々から大歓迎され、その噂を聞いた辺境の国々は次々と琵琶国と同盟を結び忠誠を誓いました。
やがて、毘魯将軍の武勇を知ったローマの皇帝からも毎年のように同盟を求めて、使者が尋ねてくるほど、西中央アジアでは強大な国になりました。

しかし、面白くないのは残りの剣士達です。自分たちも闘いの場をくぐり抜けてきた自負もあって、毘魯将軍だけが注目されるのは、なんとも腹立たしいことでした。
表面的には一枚岩に見える5剣士も、その裏側では権謀術数が渦巻き始めていました。
毘魯将軍がいない所では誇張と虚実を加えて誹謗し、当人がいる場では賞賛を口にしました。しかし人の口に戸は立てられないものです。そのことはやがて毘魯将軍の耳にも入るようになりましたが、たとえ根も葉もない作り話を流されても、勇猛で知性あふれる毘魯将軍は動じることもなく、相変わらず闘いに明け暮れ、物凄い勢いで反抗的な国々を平定して行きました。

時がたち、剣士達を今日迄育てた偉大な国王が不治の病で世を去ると、あれほど堅固だった琵琶国が揺らぎ始めます。五人の将軍は自分達の任地に散って攻めてくる敵を打ち破っていましたが、ある時、安寧という、それぞれの将軍達に武器を売り歩いている老商人が毘魯将軍に、「次の満月の夜に開催される軍議の場で将軍を暗殺する計画がある」ことを伝えました。老商人安寧と毘魯将軍の父親は、その昔、一緒に戦った戦友でした。しかし仲間を信じる毘魯将軍は、その言葉を意にも介さず、軍議に出かけていき、浴びるように酒を飲まされ、ぐっすりと寝ているところを、あっけなく殺されてしまいました。

「毘魯将軍死す!」その噂を聞いた周りの国々は徐々に琵琶国に反抗しはじめました。最初は毘魯将軍が育てた優秀な戦士が敵を追い散らしていましたが、その戦士たちも保守的な四人の将軍の無能さに失望して、国を去って行きました。
ある満月の夜、琵琶国は突然、姜曽爾国に急襲され、あっという間に占領されてしまいます。姜曽爾国はかって琵琶国に固い忠誠を誓った国でした。捕まった四人の将軍は、
首を刎ねられる前に、なぜこの国を襲ったのかと聞きました。姜曽爾国の旬駿将軍は答えました。「お前たちは自分こそが最強の将軍と思っているが、琵琶国を恐れていたのは毘魯将軍がいたからだ。あの将軍と兵士たちが居なくなった国など、赤子の手をひねるより簡単だ。お前たちは彼の強さを自分の強さと勘違いしていただけだ。毘魯将軍は最強の将軍だった、彼のいないこの国は、もう決して立上がれない。」と涙を流して話しました。
四人の将軍の首は次の満月まで廃墟に曝されたという。






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