2009年11月16日月曜日

世界遺産にて。「父と子」イエメン。

 砂漠を旅する途中でこんな話しを聞いた‥…。

 族長を退いて息子に譲った父親は、荒涼とした砂漠の谷にある、小さな終の住処で静かな暮らしを始める‥…。

 部族を継いだ息子の統治手腕も満足に発揮され、反対派、懐疑派も一掃された頃、息子は父の住む谷間に向かう‥…。




 父親は息子が尋ねてくることを予見して、暖かなお茶を入れて待っている。それは父親が若き日に族長を継承した時と同じだから‥…。

 息子は父が入れてくれた茶をゆっくりと味わうと、幼かった自分を此処まで育て、導いてくれた礼をいい、父親は逞しく育った息子を讃え、健康を案じる‥…。

 そして「部族の繁栄を図り、なにより民を慈しみ、母や兄弟を慈しめ。」と最期の言葉を遺す。それは父親がその父親から受け継いだ先祖代々の言葉である‥…。


 そうして親子の別れが終わると、息子は父親を剣で刺し殺す‥…。


今は廃れてしまったが、アラブの民はこうして族長を継承していった。
父親は子に身を以て試練を課すことで、部族を率いる責任と過酷な砂漠に生きる民の運命を教えるのだ。
悲しいけれど、なかなか潔い男らしい話しだと思う。男は仕事で戦死するか、風のように消えるのが相応しい。



 さて、死んだ父親は荒涼とした砂漠を旅するのではなく‥…乾きも空腹もない‥…緑豊かな道を何処までも歩いて行くらしい‥…。

(僕が息子の立場だったら‥…どうしよう。
何もかも放り出して逃げるかな‥…。逃げても夜の砂漠はめちゃ寒いし‥…。)

0 件のコメント:

コメントを投稿